【障害予防シリーズ6】 オスグッド-シュラッター病
障害予防シリーズ,第6弾は「オスグッド-シュラッター病(以下,オスグッド病)」です.
小学生,中学生など成長期の子供に多い疾患なので,保護者の方にも知っていただきたい内容です.
【病態】オスグッド病とは?
オスグッド病は,スポーツを活発に行う小学校高学年~中学生(10歳から15歳)の成長期に好発するスポーツ障害です.
サッカーやバスケットボールなど,ジャンプやストップ動作を繰り返し行うスポーツで多く発症しますが,陸上競技の選手にも多くみられます.
オスグッド病は,「脛骨粗面(お皿の下の骨)の骨端症」のことを示します.
骨端症とは,成長期にある骨端部に痛みを誘発する骨の障害のことです.
詳細は,障害予防シリーズ第7弾の「骨端症」をご覧ください.
大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)は,膝蓋骨を経由して膝を伸ばす力として働きます.膝を伸ばす力の繰り返しにより,大腿四頭筋が膝蓋腱付着部を介して脛骨粗面を牽引するために,脛骨粗面の成長線に過剰な負荷がかかり成長軟骨部が剥離することで生じます.
10~15歳では急激に骨が軟骨から成長する時期であり,脛骨粗面は力学的に脆弱(ぜいじゃく)となっています.
<症状>
オスグッド病に特徴的な症状は,スクワットやランニング,ジャンプなどのスポーツ動作で痛みが出ることです.
痛みが強い場合には,階段の昇り降りや歩いている時,立ち上がり動作,正座などの日常生活動作でも痛みが出ることもあります.
脛骨粗面に腫れや熱感がある,脛骨粗面が突出している,脛骨粗面を押すと痛い,といった症状も特徴的です.
多くの場合は成長が止まることで症状が軽快しますが,成人になってもはがれた骨の一部が残ってしまうことで,遺残性オスグッド・シュラッター病となり症状が慢性化することがあります.その場合は骨片を取り除く手術をすることがあります.
【発生機序・要因】
オスグッド病の発症には,様々な要因が関わっており,以下のものが挙げられます.
• 急激な身長の増加
:発達の過程で骨が急激に伸びて筋の伸張性が低下することが原因となる場合があります.
• 脛骨粗面の脆弱性(ぜいじゃくせい)
:10歳から15歳にかけて骨が急激に成長する時期に,脛骨粗面の強度が比較的脆弱になるという構造的な問題について報告されています(塩田ら, 2018)
• スポーツ活動量の多さ(週6~7回練習している,など)(Lucena et al.,2010)
• 切り返し,ジャンプ動作などの瞬発的な動作の繰り返し
• 姿勢の悪さ:骨盤後傾(腰が丸くなる),胸椎後弯(猫背),後方重心など
• 走行時の悪いフォーム
• 大腿四頭筋(太もも前の筋)の柔軟性低下(Lucena et al.,2010)
• 足関節背屈角度が小さい(足首が固い)(Zoran et al., 2008)
• ハムストリングス (太もも裏の筋)の柔軟性低下,股関節外旋角度が小さい(股関節が固い)(塩田ら, 2016)
【治療法】
いわゆる成長痛の一つですが,痛みを抱えたままスポーツを続けてしまうと,痛みが長引くケースが多くみられます.
オスグッド病をはじめとした成長期の骨軟骨の問題は、判断を誤ると長期の運動休止や,慢性化すると手術が必要となる場合もあるため,早期に発見し,適切な治療を受けることが大切です。
また,実際には治療をしながらスポーツを行っても良いケースと,患部を治癒させるまではスポーツを完全に休まなくてはならないケースがあります.
そのため,この疾患が疑われる場合は,正確な診断を受けるために病院に受診することが重要です.
多くの場合は,X線(レントゲン)検査を行うことで診断が可能です.
また,少し休んだからと言ってスポーツを再開しても,発症の原因が改善していないと再発してしまう可能性があります.そのため,段階的なリハビリテーションが重要となります.
<段階的なリハビリテーションの例>
① 適切な休養
治療の第一段階としては炎症を抑えるためにアイシングが行われます.
症状が比較的軽い場合は,ストレッチングや装具の使用をしながら,スポーツ活動の制限は最小限にして経過をみます.症状が強い場合は炎症がおさまるまで局所の安静を保ち,スポーツ活動を禁止することもあります.
疾患の性質上,多くは発育の停止とともに軽快します(標準整形外科学 2015).
② 柔軟性改善のリハビリ
成長期には急激に身長が伸びるために,筋肉の柔軟性が低下してしまうことがよくみられます.
オスグッド病の痛みの部位は大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)の付着部と一致するため,大腿四頭筋の柔軟性を向上させることが重要となります.また,動作を改善させるためには,骨盤や股関節,足首の柔軟性にもアプローチする必要があります.
③ 筋力トレーニング
大腿四頭筋はその名前の通り4つの筋肉で構成されますが,それぞれの筋力の不均衡や,太もも後面の筋力不足により,膝前面へのストレスが増大するため、太もも前面および後面の筋力トレーニングを積極的に行います.
④ 動作の改善
後方重心,または膝関節ばかりに頼った動作になることで太もも前面の筋肉および膝前面に負担のかかる動作となってしまいます.スポーツに復帰するにあたって,骨盤をしっかりと前に倒し前方重心を導く動作や,太もも後面の筋活動を意識した動作を練習します.
【予防法】
① 股関節,膝関節,足関節の柔軟性改善
太ももの裏,おしり,ふくらはぎを伸ばすことで,骨盤の後傾(腰が丸くなる動き),重心の後方化を防ぎます.
すでに膝の痛みがあり,太ももの前のストレッチができない場合は無理をせずに,可能な範囲で行いましょう.
② 筋機能,動作の改善
これらのトレーニングも膝の痛みがあり,太ももの前のストレッチができない場合は無理をせずに,可能な範囲で行いましょう.
③ セルフチェック
膝のお皿の下にある脛骨粗面を押して痛みを感じるようであればオスグッド病の可能性があります.
成長期の方は定期的にセルフチェックをしましょう.
以上,オスグッド病に関するまとめでした.わかりやすく記載するため一部専門用語を避けたり,先行研究の一部のデータのみを紹介しております.わかりにくい部分やご指摘がありましたら,コメント欄をご活用ください.
第7弾は「骨端症」です.月に1回更新していきますので,ご期待ください!
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