【傷害予防シリーズ5】足関節捻挫

傷害予防シリーズ,第5弾は「足関節捻挫」です.

皆さん,捻挫と聞くとどのようなイメージを持ちますか?


●病態:足関節捻挫とは?

捻挫とは,「手や足などの関節に無理な力がかかり,関節が外れかかって靭帯や腱が損傷された状態」と定義されています.

足関節捻挫はスポーツ外傷の中で最も多くみられる外傷であり,その再発率は約70%にまで及ぶとされています(Yeung,1994).

靱帯損傷が生じ再発を繰り返すと,スポーツに支障が出るだけでなく,将来的に軟骨がボロボロになる変形性関節症へ進行するリスクもありますが,スポーツ現場では軽視されがちというのが現状です.


足関節捻挫は,内反(内側に捻る)捻挫と,外反(外側に捻る)捻挫に分類されます.

① 足関節内反捻挫

親指が上になる状態で足首を捻ることを指します.この場合,外側の靭帯に影響が起こります.発生頻度は,外側に捻る捻挫(外反捻挫)に比べ多くなります.

② 足関節外反捻挫

小指が上になる状態で足首を捻ることを指します.この場合,内側の靭帯に影響が起こります.陸上競技では,走高跳でとくに起こりやすく,曲線助走から,踏み切りで急激に速度の方向を切り替える際に受傷するとされています.


足関節捻挫が起こると足関節周囲の腫れ,圧痛(押したときの痛み),皮下出血(数日後に出現する場合もあり)などの所見がみられます. 皮下出血が生じている場合には重症である可能性が高いです.

一般的に靭帯損傷を呈していることが多く,足関節は靱帯が無いとグラグラになってしまう構造であること考えると,捻挫だからと言って軽視してはいけません

また,足関節外果骨折(外くるぶしの骨折)など他疾患との鑑別が必要となり,レントゲンなどで骨折の有無を確認するためにも医療機関を受診することが推奨されています.


足関節捻挫後は,構造的不安定性(靱帯損傷による関節の緩さ,関節の変性など)機能的不安定性(筋力低下や神経機能の低下,反応速度の低下など)が生じ,再捻挫を引き起こしやすいCAI(慢性足関節不安定症)という病態へ繋がりやすいとされています(Jay H,2002).

 “捻挫は癖になりやすい”というのは,CAIなどの病態が関与していると考えられ,走ることや少しの方向転換など簡単な動作でも捻挫を繰り返してしまいます.

※近年,CAIのより詳細な病態モデルが提示されていますが,ここでは説明を省きます.



●発生機序/要因

足関節捻挫は側方への強い外力が加えられることによって発生します(木田,2014).

相手との接触があるスポーツ(サッカーやバスケットボール)では,相手の足を踏んで捻る,相手と衝突して転ぶといったように,予測不能な状態で受傷することが多いです.

一方で,陸上競技のように接触の少ないスポーツでは,着地時や方向転換時に足首を捻って受傷することが多いです.陸上競技ではハードルの着地時跳躍時の踏切や砂場やマットへの着地,長距離選手ではジョグ中に縁石を踏み外すなどで発生します.


発生要因の一つとして,足部アーチ(土踏まずの高さ)との関連性が認められており,足部アーチ低下による衝撃吸収能力の低下や,運動連鎖による他関節(膝や股関節,骨盤)への影響が生じると報告されています(藤高,2007).また小趾球(小指の付け根)荷重でのスポーツ動作は足関節内反捻挫を引き起こすとされています.

その他の要因として,アスファルトなどの固い地面や砂場などの不安定な場所だとバランス能力が求められ受傷しやすくなります.そしてトレーニングシューズの靴底のすり減りに偏りがある場合(外側ばかり減っているなど)も受傷しやすくなる可能性があります.


●治療法

足関節捻挫は初回でしっかり治すことが重要です.靱帯が治る前に無理に動いたり捻挫をしたりすると,再発を繰り返す悪循環に陥ってしまいます.また,治りが遅い場合に,後から固定や安静をとっても完全な治癒は期待できません.


足関節捻挫の治療方針として保存療法と手術療法がありますが,保存療法を中心に行うことが多いです.ただ高度な不安定性がある場合や,保存療法で症状が改善されない場合は手術療法が選択されます.

受傷直後はアイシングを行い,痛みや腫れ,出血の軽減を図り,重症度や経過に応じた固定(ギプス固定・足関節装具・テーピング)を行います.ここでの安静(運動休止)期間がとても大事となり,十分に安静期間を取らないと後遺症が残ることや,足関節が緩いなどの捻挫癖の原因となります.


固定中や固定を外した後には,機能改善と再発予防のための運動療法を行います.

重症度によって固定法は異なり,軽症例では装具やテーピングを用いた固定が行われます.装具やテーピングはギプス固定後や術後,運動療法中に用いられます.ただあくまで装具やテーピングは補助的なものであり,運動療法を主体に考える必要があります.

運動療法の内容としては足関節の可動域訓練や,筋力,バランス訓練などが行われます.受傷後4週目以降は癒着が進み拘縮が発生してくるため,疼痛に注意しながらの可動域訓練が重要となります.筋力やバランス訓練に関して,詳しくは予防法で説明させていただきます.


●予防法

足関節捻挫は再発が多く,捻挫を繰り返すとCAIへ移行するリスクもあり,予防が重要となります.最悪の場合,足関節捻挫を再発してその後の選手生命が絶たれることもあります.

そこで今回は足関節捻挫の予防に向けて,とくに重要な点を絞って紹介させていただきます.


① 足部アーチ保持力の向上

足部アーチ保持筋力トレーニングにより,足関節捻挫の発生数の低下や(藤高,2012),身体運動機能の向上(井原,1995),姿勢制御能の改善が得られる(半田,2004)ことが報告されています.

足部アーチ保持に関する筋としては,長趾屈筋・長母趾屈筋・短母趾屈筋などの足趾屈筋群や,後脛骨筋・長腓骨筋が挙げられます.

今回は足趾屈筋群と長腓骨筋のトレーニングを紹介します.

ちなみに後脛骨筋に関しては,長腓骨筋と逆の動きである内反(内側に捻る)の動きをしてあげることで強化することができます.


② 荷重位での底背屈動作(つま先の上げ下げ)の強化

足関節内反捻挫は底屈(つま先が下に向く状態)位で受傷することが多いため,足関節背屈位(つま先が上になる状態)での筋力強化が必要となります.その一方で,足関節外反捻挫は過背屈(過度につま先が上になる状態)で受傷するため,底屈位(つま先が下に向く状態)での動作を強化していく必要があります.


③ 小趾球荷重の改善

小趾球荷重によって内反捻挫を受傷しやすくなるため,母趾球荷重への改善は重要となります.

今回は3点に絞って紹介させていただきましたが,足関節捻挫の予防には体幹筋や股関節周囲筋の強化もとても大切になります.こちらに関してはこれまでの記事をぜひ参考にしてください.


以上,足関節捻挫に関するまとめでした.わかりやすく記載するため一部専門用語を避けたり,先行研究の一部のデータのみを紹介しております.わかりにくい部分やご指摘がありましたら,コメント欄をご活用ください.

 第6弾は「オスグッド・シュラッター病」です.更新が遅れることもありますが,引き続きご期待ください!



HATT 北海道陸上競技トレーナーチーム

HATT (Hokkaido Athletics Trainer Team;北海道陸上競技トレーナーチーム)は、 北海道内の陸上選手をサポートすることを目的としたチームです。 選手のより良い競技活動のため、医療などの資格を持つトレーナーが集まり活動しています。

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