【傷害予防シリーズ2】シンスプリント

今年度から開始した傷害予防シリーズ,第2弾は「シンスプリント」です!

陸上選手であれば"シンスプ"という言葉をどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか??


●病態:シンスプリントとは?

 シンスプリントは,「ランニングやジャンプなどの反復によって,下腿遠位内側部(すねの内側)に発生する疼痛の総称」を表しますが,その呼称は専門家のみならず陸上選手にも知られている用語かと思います.

 しかし,これまでその定義は専門家の中でもあまり明確ではありませんでしたが,最近では「虚血性疾患や疲労骨折による痛みを除く,運動中に生じる脛骨後内側縁(すねの内側)に沿った痛み」と定義されました(Yates & White, 2004).専門的にはシンスプリントではなく脛骨内側過労性症候群(Medial tibial stress syndrome:MTSS)と言われる場合もありますが,現場レベルでは2つの言葉はほとんど同じ意味ととらえていいかと思います.


 アスリートにおける発症率は16~44%(Pilsky et al., 2007; Hubbard et al., 2009; Yagi et al., 2013),日本の高校生ランナーにおける発症率は44%と報告されています(Yagi et al., 2013).また,ランニング障害において13.2~17.3%の発症率を占めるとの報告があることからも(Clement et al., 1981; Taunton et al., 1988; Hubbard et al., 2008),陸上選手がよく経験する障害ということがわかります.


 シンスプリントは他の障害に比べると競技復帰までの期間が長く,重症化すると歩くだけでも痛みが生じ,完全復帰までに3ヶ月以上かかる場合があると報告されています(Moen et al., 2012).また,1年以上経っても症状が改善されず完全復帰に至らない場合もあり,時には手術を要する(Yates et al., 2003)など甘く見てはいけない障害です.

 そのため,対応を間違えると競技能力を低下させるだけでなく,時には競技復帰も阻害する可能性がある,とても注意すべき障害です.



●発生機序/要因

 シンスプリントが発症する理論として2つの理論が提唱されています.

 1つ目に,すねをねじる力,曲げる力あるいは圧縮する力が加わることにより脛骨に微細損傷が生じ疼痛が発生する理論(Moen et al., 2009)

 2つ目に,脛骨の内側に付着している筋肉(ヒラメ筋,長趾屈筋,後脛骨筋)の張力が筋膜に加わることにより疼痛が発生する理論(Bouche et al., 2007)

 以上の2つが考えられています.つまり,脛骨に加わる力や脛骨周りの筋肉にかかる負担を減らすことが重要です.


 どちらの理論においても走行時に足部アーチ(土踏まず)がつぶれることがシンスプリントの発症要因と考えられており,走行時に足部アーチ(土踏まず)がつぶれないようにすることがシンスプリントを予防する上で重要と考えられます.

 その他の要因としてはBMI(身長に対しての体重の重さ)が高いこと,走行距離の増加シューズの摩耗などが挙げられます.そのため,シンスプリントの予防には身体要因だけではなく外部の環境にも気を付けなければいけません



●治療法 

 いくら気を付けていても脛骨の内側に痛みが生じてしまう場合があります.そのようなときは筋肉または骨に炎症が生じていることが考えられるため,アイシングによって炎症を抑えることが重要です.

 氷嚢,アイスパックやアイスノンなどで痛みがある部位を15~20分程度冷やしてください.しかし,凍傷の危険もあるので冷やしすぎには気をつけましょう.


 また,筋肉の硬さが痛みの原因になっている可能性もあるため,ふくらはぎのストレッチやマッサージも効果的であると考えられます.これらは予防のためにも重要なので,詳しくは予防法のところで紹介します.

 

 上に示した対応はあくまでシンスプリントへの対処法です.すねの痛みの原因としては疲労骨折などのほかの疾患/怪我も考えられます

 スポーツ現場では,よく「すねが痛い」「シンスプが痛い」と言いつつトレーニングをする場面も見かけますが,痛みが引かず病院受診をしてみたら実は疲労骨折だったというケースもあります.

 シンスプリントではすねを押したときの痛みが5cm以上に広がることがほとんどですが,疲労骨折では2-3cmに限局していることが多いです.また,シンスプリントでは通常すねをたたいた時の痛みや腫れはみられませんが,疲労骨折ではこれらの症状がみられることもまた多いです.

 これらの症状の見極めは専門家でなければなかなか難しく,シンスプリントと疲労骨折では治療法も異なってくるため,痛みが出た時点で病院受診をして医師の診断のもと治療をすすめることをお勧めします.

 疲労骨折の詳細に関しては次回のコラムで紹介する予定なので,そちらも参考にして下さい.



●予防法

 前述したようにシンスプリントの発症には脛骨に加わる力や筋膜に加わる力がかかわっています.それらを軽減するための対処法を以下に紹介します.

  ① 足首・ふくらはぎ周りの筋肉の柔軟性と筋力の改善

  ② 股関節の可動域と臀部筋力の改善

  ③ フォームの修正


① 足首・ふくらはぎ周りの筋肉の柔軟性と筋力の改善

 足首・ふくらはぎ周りには多くの筋肉があるため,マッサージや様々な姿位でのストレッチをすることが重要です

 また,筋トレに関しては足部アーチ(土踏まず)がつぶれないように,特に足部周りの筋トレが重要になります.


② 股関節の可動域と筋力の改善

 股関節周囲の可動域や筋力が低下していることにより,足首・ふくらはぎ周りの筋肉への負担が大きくなることが考えられます.そのため股関節周りのストレッチや筋トレも重要になります.


③ フォームの影響

 走る際のフォームもシンスプリント発症に関与すると考えられます.前述したような足部アーチ(土踏まず)がつぶれることが発症の主な要因と考えられますが,シンスプリント症例では走行時に股関節が内側に入ること(内股になること)[下図; a,b] や,体幹の前傾姿勢 [下図; c] が報告されています.また,走行時に股関節を上手く使えず,足関節への負担が増え [下図; d],脛骨に負担がかかることも考えられています.そのため,これらのフォームを改善することがシンスプリントを予防するために必要と考えられます.

 しかし,前回のコラムでも説明したようにフォームの改善は容易ではなくパフォーマンスを低下させてしまう恐れがあります.そのため,改善するかどうかは指導者の先生や,理学療法士やアスレティックトレーナーなどの専門家とよく相談した上で決めましょう.

 以上,長くなってしまいましたが,シンスプリントに関するまとめでした.わかりやすく記載するため一部専門用語を避けたり,先行研究の一部のデータのみを紹介しております.わかりにくい部分やご指摘がありましたら,コメント欄をご活用ください.

 第3弾は「疲労骨折」です.月に1回更新していきますので,ご期待ください!

HATT 北海道陸上競技トレーナーチーム

HATT (Hokkaido Athletics Trainer Team;北海道陸上競技トレーナーチーム)は、 北海道内の陸上選手をサポートすることを目的としたチームです。 選手のより良い競技活動のため、医療などの資格を持つトレーナーが集まり活動しています。

0コメント

  • 1000 / 1000