【傷害予防シリーズ8】腸脛靱帯炎

傷害予防シリーズ第8段は「腸脛靱帯炎」です.ランナーズニーとも呼ばれ,特に長距離選手に多い障害です.また,腸脛靱帯が張ってくると様々な不調にもつながると感じている選手も多いのでは無いでしょうか?


●病態

腸脛靭帯は骨盤から脛骨外側(スネの骨の外側)まで付着している大きな靭帯であり,殿筋(お尻の筋肉)や股関節前面筋と繋がっています.腸脛靭帯炎は膝屈伸動作の繰り返しにより腸脛靭帯が大腿骨外側上顆と接触して摩擦が起こることにより炎症が生じる障害です(内田,2012).主に長距離ランナーに多く発生することから,ランナーズニーとも呼ばれています.

運動の途中や終わりころに出現する膝外側痛や患部の腫脹や熱感が特徴的な症状です.また,大腿骨外側上顆付近に圧痛があり,30°程度膝を屈曲した状態が特に痛みが強いといわれています(村田,2005).

 一度痛みが出現すると根治に時間がかかり慢性化しやすいため,完治させることがとても大切になります.

 また,膝外側部痛を生じる外側半月板などの他疾患との鑑別が重要となります.外側半月板損傷は膝のひっかかり(ロッキング)や膝折れなどが特徴的な症状として挙げられます.損傷範囲や形態によっては手術にもなり得る疾患です.治療法が異なるため,病院を受診して医師からの診断を受けることを勧めます.


●発生機序/要因

発生要因は主にオーバーユース(使い過ぎ)であり過剰なランニング時間や距離,それに伴う休養不足が原因となります.

腸脛靭帯にストレスが生じる要因としてオーバーユースの他にも以下のものが挙げられます。


① 股関節周囲筋の柔軟性低下や筋力低下

② 内反膝(O脚),回内足(扁平足)などの元々の骨形態

③ ランニングフォーム(股関節内転・内旋位、knee-out)

④ ランニング環境(固い路面や下り坂)

⑤ 硬いランニングシューズ(クッション性の乏しい靴)


これらの対処法に関しては,下記の予防方法の項目で解説します.



●治療方法

 手術療法をする症例は稀でほとんどが保存療法での治療となります.日常生活動作(歩行や階段など)で痛みや腫れ,また熱感がある場合は患部の休養を優先させ,スポーツ活動を休止することが多いです.痛みがある場合や運動後には,アイシングを氷嚢などを用い1回10~15分程度行いましょう(長時間行うと凍傷が起きる危険性もあるため気を付けてください).


 医療機関ではストレッチ指導や筋力トレーニング,インソールの処方,テーピング,消炎鎮痛薬の処方,超音波療法などを行います.例えば,腸脛靱帯炎の症状が出る原因として,殿筋や体幹筋が弱いことが腸脛靭帯に負担をかけて炎症をきたすと考えられます.その原因自体を改善する必要もありますので,下の項目にある予防方法を参考にしてみてください.

 


●予防方法

 怪我を発生,再発させないためには予防が大切になります.そのため,セルフで行えるストレッチや筋力トレーニングを紹介します.予防だけでなく,治療時のリハビリにも使える内容です.

① 腸脛靭帯の柔軟性,殿筋・大腿部の柔軟性と筋力向上

腸脛靭帯に負担がかかる要因として腸脛靭帯の柔軟性の低下や殿筋・大腿部の柔軟性の低下,筋力低下が挙げられます.腸脛靭帯,殿筋・大腿部のストレッチ臀筋や体幹筋の筋力トレーニングを紹介します(下の写真を参考にしてみてください).ストレッチは伸長感が得られるところで30秒伸ばします.最低でも3セットを目安に行いましょう.

また,ストレッチポールやテニスボールを用いた腸脛靭帯のマッサージも効果的です.長時間行うと組織が傷んでしまう危険性もあるため5分程度を目安に行うようしましょう.ストレッチポールやテニスボールがご自宅にない方はサランラップの芯で行うのもお勧めします.

② ランニングフォームの見直し

腸脛靭帯炎が発生する原因として不良なランニングフォームも挙げられます.例を以下に紹介します.

しかし,フォームを修正することは難しく,パフォーマンスを落としてしまうリスクもあります.監督やコーチとよく相談し,理学療法士などの専門家の指導のもとで行うことをオススメします.

③ トレーニング量・内容の改善

過度な練習量により腸脛靭帯への負担が増え症状が発生する恐れがあります.そのため,練習量を調整し,休息日を設けることをお勧めします.練習の前後や休息日にはストレッチを入念に行いましょう.また,同方向での周回練習では片方の脚への負担が増えます.普段と反対周りのトラック走行の練習を取り入れるなど練習方法も工夫してみることをお勧めします.


④ トレーニング環境の改善

復帰直後などは硬い路面や下り坂での練習を避けるようにしましょう.また,底の薄いランニングシューズでは脚にかかる負担も大きくなるため,底の厚いクッション性の高いシューズの使用をお勧めします.


以上,腸脛靱帯炎に関してまとめさせていただきました.わかりやすく記載するため一部専門用語を避けたり,先行研究の一部のデータのみを紹介しています.

わかりにくい部分やご指摘がありましたら,コメント欄をご活用ください!

HATT 北海道陸上競技トレーナーチーム

HATT (Hokkaido Athletics Trainer Team;北海道陸上競技トレーナーチーム)は、 北海道内の陸上選手をサポートすることを目的としたチームです。 選手のより良い競技活動のため、医療などの資格を持つトレーナーが集まり活動しています。

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