【傷害予防シリーズ 7】骨端症

陸上競技選手への傷害予防のための情報提供,7回目は骨端症です.成長期の子どもに多い怪我のため,保護者の方々にも是非読んでいただきたい内容です.


●病態

成長期の骨には身長が伸びるための成長軟骨があります.この軟骨成分が血流障害を起こすと組織が壊れやすくなり,炎症や変形が起こり生じる疾患とされています(図1).骨端症は軟骨成分を多く含む成長期に多く生じます.原因不明なものも合わせると40種類以上ありますが,ここでは陸上競技などスポーツ動作で生じやすい疾患に関して紹介します.

① 離断性骨軟骨炎

10代の男児に多いとされていて,軟骨下骨(関節軟骨の下にある骨)が骨壊死を起こして軟骨が剥がれたりします(図2).投球動作では肘関節,ランニングや跳躍動作では膝関節や足関節で発症します.膝関節では大腿骨(太ももの骨)側の内側に好発しますが,大腿骨の外側や膝のお皿にも起こります(整形外科運動療法ナビゲーション改訂第2版,2014).

離断性骨軟骨炎は動作中の痛みだけでなく,膝が伸びにくくなったり,関節の引っかかりが生じることがあります

② オスグット・シュラッター病

脛骨粗面(膝のお皿の下)の軟骨部に負荷がかかることによって、軟骨部が炎症を起こしたり、軟骨部の剥離が生じることで痛みを訴える疾患です。(詳細は,障害予防シリーズ第6弾の「オスグット・シュラッター病」をご覧ください.)


③ シーバー病

10歳前後の男児に多いとされていて,かかとの軟骨部に負荷がかかることによって軟骨部が炎症を起こしたり,軟骨部がかかとの骨から剥がれたりします.運動中かかとに体重をかけると痛みが現われます


フライバーグ病(第2ケーラー病)

10代の女性に多いとされていて,血流障害で中足骨が壊死してしまう疾患です(図3).第2中足骨に多く,次いで第3,4中足骨にも生じます.症状は,中足骨の圧痛や腫脹がみられ,つま先立ちをしたときなどに足の甲のつま先側に痛みが現れます


●発生機序

発生要因が不明な点もありますが,陸上競技では以下2点の力学的な要因が関連すると考えられます.


① スポーツ動作(走行,切り返し)などで骨端部へ衝撃が繰り返しかかる

骨端部に衝撃が加わることによって生じた血流障害により組織が破壊され,軟骨部に炎症や痛みが生じます.


② 筋や腱の柔軟性が低下している

軟骨成分を多く含む成長期の骨は,筋や腱の牽引力に弱く,スポーツ動作の負荷が繰り返しかかることによって筋や腱が付着した骨端部が剥がれやすくなります.大人の骨は骨端線が消失して固く丈夫な骨なので,骨端部が剥がれることは少なく,筋や腱自体の問題が生じることが多いです(図4).

また,成長期の骨の場合,骨が成長していく段階で筋や腱の柔軟性が追い付かず,より大きな牽引力がかかってしまうことが原因として考えられます.


●治療

この疾患が疑われる場合はまず整形外科への受診し,医師から指示を受けることが重要となります.軽症の場合は運動制限リハビリテーションにより治癒しますが,長期間の運動制限が必要となったり,場合によっては手術が必要となるため慎重に経過を見ていくことが重要となります.


① 運動を控え安静にする

炎症が生じたら,運動量のコントロールし軟骨部にかかる負担を軽減する必要があります.

② 足底板や装具を利用する

足底板を使用することにより足底から加わる衝撃を緩和し症状の軽減を図ることができます.整形外科の医師に相談しましょう.

③ リハビリテーション

疼痛の程度に合わせ,関節可動域訓練や体重をかけないで行う筋力強化訓練から行っていきます(図5).炎症による痛みが引いたら,体重をかけた運動も段階的に行なっていきます.


●予防

① 筋の柔軟性を高める

シーバー病とオスグット・シュラッター病は筋や腱の柔軟性低下による牽引力で生じるため,骨端にかかる筋や腱のストレッチを積極的に行う必要があります.


・シーバー病の場合

かかとの骨に付着しているアキレス腱および足底腱膜の柔軟性の低下が原因となるため,アキレス腱およびふくらはぎのストレッチを行いましょう(図6).

・オスグット・シュラッター病の場合

大腿四頭筋のストレッチ

詳細は,障害予防シリーズ第6弾の「オスグット・シュラッター病」をご覧ください.


② ウォーミングアップ

練習前にウォーミングアップをしっかり行い、体温・筋温が上がることでより筋肉の柔軟性の向上につながります. また,筋の収縮あるいは筋出力を高めてより大きな筋パワーの発揮に貢献することが言われているため(青木,1993),運動時の身体のコンディション作りに重要です.


③ 成長期に合わせた練習計画を立てる

10代は大人と違って筋力も十分ではないため,運動の頻度や負荷の調整を行い,過負荷とならないような練習計画を立てることが重要となります.



以上,骨端症に関してまとめさせていただきました.わかりやすく記載するため一部専門用語を避けたり,先行研究の一部のデータのみを紹介しています.

わかりにくい部分やご指摘がありましたら,コメント欄をご活用ください.

HATT 北海道陸上競技トレーナーチーム

HATT (Hokkaido Athletics Trainer Team;北海道陸上競技トレーナーチーム)は、 北海道内の陸上選手をサポートすることを目的としたチームです。 選手のより良い競技活動のため、医療などの資格を持つトレーナーが集まり活動しています。

0コメント

  • 1000 / 1000